書評:秋吉理香子『暗黒女子』 読んでから観る?観てから読む?

映画化で話題の本作は 原作だって面白い!

興味のある小説が映画化されると聞いた時、あなたはまず原作から読む派ですか? それとも映画から観る派ですか? 筆者の友人・知人は圧倒的に「映画から観る派」。その理由を聞くと「原作を読んだ時に、頭の中で映像のイメージが湧きやすいから」とのこと。なるほど、それならテンポよく話を追いかけるかもしれませんね。

私個人は断然、原作から読むタイプ。昔から小説が好きなので、自分の頭の中でイメージを膨らませたい(妄想したい?)のと、紙のページをめくる時の高揚感がたまらなく好きなのです。

さて、今回取り上げる『暗黒女子』も、映像化され、2017年春に封切られる作品のひとつ。清水富美加さんと飯豊まりえさんのW主演、共演に清野菜名、玉城ティナ、小島梨里杏、平祐奈、千葉雄大さんといったフレッシュな顔触れが名を連ねる話題作として、タイトルを聞いたことがある方もいらっしゃると思います。

——わたし以外、幸せになるのは、許さない。

悪意に満ちた映画のサブタイトルに一瞬ドキッとさせられますが、その期待に違わず、本編では登場人物たちが内に秘めた暗黒の一面を次々と露わにしていくのです。
 
 

「私だけが知っている」その告発は真実か否か

まずは簡単に小説のあらすじをご紹介しましょう。

物語の舞台はとあるミッション系お嬢様高校の文学サークル。部室には贅を尽くした室内装飾と充実した書庫、キッチンが完備されており、まさに至れり尽くせり。しかも、会長が認めた者しか入部を許されない、少数精鋭のグループです。実権を握っているのは学校経営者の娘でもある会長の白石いつみ。カリスマ性にあふれた美少女で、周囲からも常に憧れられる存在です。

そのいつみが、ある日、学校のテラスから落下する悲劇が起こります。その手にすずらんの花を握りしめて……。いつみが身投げする理由も、すずらんの花の意味するところも謎に包まれたまま、次第に校内では「文学サークルの中にいつみを手にかけた犯人がいる」との噂が流れはじめます。

そうしたなかで開催されたのが、文学サークル恒例行事の自作小説朗読会でした。司会進行は、いつみの親友で、いつみに代わりサークルの会長に就任した澄川小百合。彼女が小説のテーマに選んだのは「白石いつみの死」でした。

朗読会では毎回、部屋の明かりを落として闇鍋を囲むのがお約束。暗闇の中で得体の知れない具材を食しながら、サークルのメンバーが一人ひとり、自作の小説を読み上げていきます。その内容は、私小説に託した犯人の「告発」。そして一番最後に語られる物語が、いつみの死の真実を炙り出す……。
 
 
と、これが大まかな『暗黒女子』の骨子です。朗読会で発表される小説は、どこまでが作り話で、どこまでが真実なのかがわからない。はじめに告発されたメンバーが次は告発する側に回り、話が進むにつれて複雑に絡み合っていく人間関係は、登場人物が抱えたエゴと悪意を徐々に浮き彫りにしていきます。

本作で用いられている「登場人物の独白」という小説の手法は、さほど珍しいものではありません。 一読しただけでは、もしかすると、ごく平凡な物語と映るかもわからない。しかし中身を読み込んでいくうちに、作者の秋吉理香子さんは『暗黒女子』の舞台にリアリティを求めてはいないのではないかと気付かされるのです。むしろミッション系スクールの文学サークルという現実離れした夢の世界を舞台にするからこそ、そこで明かされる少女たちの心の闇が際立って見える。そう。普段、少女たちが部室で口にしているスイーツと、朗読会で振舞われる得体の知れない闇鍋のように……。そこに思い至った瞬間、私の背筋はゾクリと寒くなりました。
 
 

小説と映画、それぞれの良さをぜひ味わって!

ちなみにこの小説、見た目に残酷なシーンや過激な描写はありませんので、ご安心ください。この原稿を執筆している現在、『暗黒女子』の映画版はまだ上映されていないのですが、原作先読み派の筆者もいったん頭の中をリセットして劇場に足を運ぶつもりでおります。小説には小説、映画には映画の良さがある。私なりのメディアミックスの楽しみ方は「自分の中のイメージや固定観念にとらわれないこと」で、例えば今回の『暗黒女子』なら、映像化するにあたって監督や脚本家は原作をどう解釈し、どういうスタイルで観客に見せようとしているのかを体感したいと考えています。

さて、小説と映画。あなたはどちらを先に楽しみますか……?

投稿者プロフィール

羽野 知
羽野 知
編集者兼フリーランスライター。アパレル業界、旅行代理店、インテリア家具販売、不動産業、カフェ経営、某コンビニエンスストア勤務など、様々なキャリアを持っている。趣味はラグビーをはじめとするスポーツ観戦、路傍の花と自由な猫たちに出会うこと。現在は声帯の仕組みについて独学中。

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